私は長年自動車用変速機開発という現場に身を置いてきました。今日は、その長い道のりの中で私が学んだ「技術の本質」と、困難を乗り越えるための「心構え」について、少しお話しさせてください。
1. 「やりたい技術」と「求められる価値」の狭間で
私の開発人生で最も周囲から高く評価された製品は、皮肉なことに、当初は「やりたくない」と反発していた仕事でした。
当時、私はCVT(無段変速機)の研究に没頭していました。しかし、突然のトップ命令で、現行のMT(マニュアル変速機)をベースとした自動クラッチ製品の開発を命じられたのです。当時の私から見れば、それは技術的に中途半端なものに思えました。
「なぜ、最先端の技術ではなく、こんな古い技術を……」。そんな不満を抱えながら、尊敬する副社長に直談判しに行きました。すると、彼は私にこう言ったのです。
「お前は自分の研究の価値しか考えていない。私はお客様が何を欲しているかを考えて命じたのだ。一般大衆の直感こそが、商品の価値を決めるのだ」
この言葉は、技術者として慢心していた自分に突き刺さりました。技術開発は、技術者が己を満足させるためにあるのではない。**「お客様の利益を最大化する」ことこそが目的である**と気づかされた瞬間でした。その後、視点を切り替え、チームを巻き込み、妥協なく開発に打ち込みました。その結果、多くの顧客から高く評価され販売的にも成功したばかりでなく、技術的にも高い評価を得ることができました。
2. 「歯車」という奥深い世界からの教訓
私は設計者として長年「歯車」と向き合ってきました。かつて現場では「設計は諸元だけ決めたら、後は生産技術者に任せろ」といった分業意識が強かったものです。しかし、歯車は素材、鍛造方法、歯切り、熱処理……と、数多くの工程を経て完成します。まさに「歯車は生もの」。生産技術者とオペレータの実力差が、製品の出来に如実に出る世界です。
近年、海外では「熟練技術者に頼らず、誰が加工しても同じものができる工法」が主流になりつつあります。この潮流の中で、日本が培ってきた「高強度、高精度、大量生産」という総合技術は、今、岐路に立たされています。
だからこそ、私は皆様に伝えたい。歯車に関わる技術者は、もっと誇りを持ってください。高度で幅広い技術を有しているからこそ、どんな技術革新の波が来ようとも、私たちは即座に対応し、新たな価値を創造できるはずです。過去にしがみつくのか、それとも経験を糧に変化し続けるのか。その対応力が、私たちには備わっています。
3. 大きな挫折と、新入社員から教わった「使命」
私の人生が順風満帆だったかといえば、決してそうではありません。かつて、開発現場から突如外れ、特命担当として中途半端な立場に置かれた時期がありました。自分の貢献が認められないと感じ、強い憤りとともに転職を真剣に考えたこともありました。
そんなある日、大学の合同説明会に参加した時のことです。寒い冬の体育館、自社ブースには学生が集まらず、心身ともに凍えていました。そんな中、私の隣にいた人事の新入社員の女性は、不人気など微塵も感じさせず、必死に学生に声をかけ続けていたのです。
その姿を見たとき、全身に電気が走るような恥ずかしさを感じました。「自分は人のせいにして不貞腐れているだけではないか。目の前の小さな役割を、必死に誠実に果たすこと。それこそが大切なのではないか」。
今の私の使命は、かつての私のように尖った技術を追求することだけではありません。若い人や、挑戦する企業の方々を応援し、彼らの成功を支えること。そう気づいてからは、教育の仕事を通じて、私の知識や経験を「誰か」のために伝えることが、何よりの喜びとなりました。
4. 変化を恐れるな、共創こそが未来を拓く
「神様は、その人が乗り越えられない困難は与えない」。これは、私が挫折の中で深く実感した言葉です。
今、この先が読めない混沌とした世の中は、逆にいえば中小製造業にとっても「世界を大きく変えるチャンス」です。自社の技術を磨くことはもちろん大切ですが、それだけでなく、異業種との組み合わせや、新たな販売先の開拓など、一人では超えられない壁も、誰かと手を組めば必ず乗り越えられます。
私たちコンサルタントの役割は、ただのアドバイザーではありません。皆様の潜在的なポテンシャルを見抜き、共に汗を流し、製品化まで併走する「パートナー」です。
「仕事は自分のためにやるもの」から、「仕事は世の中を幸せにするためにある」へ。
皆様が抱える技術的な課題、経営の悩み、あるいは「もっとこうしたい」という熱い想いを、ぜひ私たちにぶつけてみてください。小さな一歩の積み重ねを、成功という形にするために。私たちは、いつでも皆様と共にあります。
